桃ちゃん 学習する

 

桃は、飛ぶのがとっても上手。
鳥なんだから当たり前のことのようですが、 それでも、ホバリングを一瞬使って直角に曲がり部屋に入って来たり、 ドアのほんのちょっとした隙間をヒュンとすり抜けて飛んで来たり、 そんな飛行テクニックを見ると、飛べない私はついつい  「おぉ〜、お見事!」 と感心してしまいます。

引き戸で仕切られている桃の部屋とリビングの行き来などは、 桃にとってはもうお手のもので、 だいたい10センチも開いていれば、上手い具合に羽をすぼめて通り抜けます。
(たまーに目測過って翼をゴンッてぶつけたりもしてますけど)

こんな風に、毎日部屋中を縦横無尽にビュンビュン飛び回っている桃ですが、 ひょんなことから 『歩く』 ということを憶えたお話をしたいと思います。




ある日のこと、桃の部屋からけたたましく鳴いて私を呼ぶ声がするので、 何事かと覗いてみると、細く開いた引き戸の向こう側で、 桃がチェストの上をウロウロしながら私を見ています。

「そっちに行きたいんだけど行けないの。 もっといっぱい開けてちょーだい、ピ!」

桃語を通訳するとどうやらそういう事らしいので、 いつもだったら、

「はいはい、どうぞ」

と大きく引き戸を開けてやるところですが、 その時、私はちょっとしたことを思い付きました。

「桃ちゃん、下に降りて歩いてごらん。そうしたらここ通れるよ」

私はしゃがんで隙間から指を出し、床をトントンと叩いてみせました。
桃はそんな私を首を傾げながら見下ろしていましたが、 暫くすると言ってることが通じたらしく、パタパタと床に降りてきました。

「そうそう、そうやってこっちに歩いておいで」

指でトントン誘導しながら根気良く言葉をかけ続けると・・・。
ついに桃は、3センチほどの隙間からトコトコと歩いて出てきたのです。


   

「偉い! 賢い! いいコ! パチパチパチ・・・(大拍手)」

もう両手で抱き上げて、ほっぺクシュクシュとチュッチュッのご褒美です。

こうして、少しの隙間でも歩けば通れるということを学習した桃。
それからというもの、チャッカチャッカ音がする方に目をやると、 細い隙間から、 お尻ふりふりフローリングの床を歩いてやって来る桃がいるのでした。
こりゃ、踏んづけないように気を付けなくっちゃだわ。




桃が憶えたことは 『学習』 と言うには少々オーバーな、 ほんのささやかなことでした。 でも、私にとっては気持ちが通じ合えたようなそんな気にさせられた、 ものすごく嬉しい出来事だったのです。 姿や仕草の可愛さも勿論そうですが、私が言葉を持たない動物と暮らしていて 心底楽しいなぁ、と思う瞬間はこういう時でしょうか。
(1997年6月記)

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