桃ちゃんの ちょっといい話

 

 
桃が家族になって、早2年と3ヶ月が経ちました。
日中一人きりの私が、さほど寂しさを感じず、 はたまた「誰かと話がしたいよー」 などとこれっぽっちも思わないですむのは、本当に桃のお蔭です。

たかがインコと言えども自己主張や感情表現はなかなか豊かで、 水浴びがしたくなれば洗面台の縁にとまって私を呼ぶ、 聞きなれない音がすれば首を伸ばして何事かと覗き込む、 欲しい物があれば視線はそこに釘付け、 カゴの中を右へ左へ行ったり来たりソワソワ走り回る、 とこんな具合に毎日一緒に過ごしていると、 言葉が無くても不思議と思っていることが伝わって来るもので、 本当に見ていて面白いです。

中でも一番要求がスゴいのは、何と言っても “カゴから出して欲しい時”。 この時の騒がしさときたらそれはもう半端じゃありません。 扉や餌箱を持ち上げガッチャンガッチャン。 鳴き声もヒステリックで、よくもまぁそんなに息が続くというくらいに、 「キキキキキキキキキキ!!」と長々金属音で鳴いてくれます。 それでも私が無視なんかしていようものなら怒りが最高潮に達し 「アタシがこんなに出してって言ってるのに!」 とでも言いたいのでしょうか、 なんと右足で地団駄を踏んで悔しさを訴えるという人間顔負けの態度に出ます。 笑えます。
こんなに気が強いところもあれば恐がりなところもあって、桃は地震が大嫌い。 揺れが始まると羽がピタッとして体が細〜くなりフリーズ状態になってしまいます。 こんな時「桃、大丈夫?」と扉を開けると、すっとんで私に飛びついてきます。 くぅっ、なんて可愛い奴なんだ!

こんな風に、感情豊かな桃と毎日楽しく暮らしている訳ですが、 先日 『喜怒哀楽』 の 四文字では説明できない、不思議な出来事があったので書いてみたいと思います。

ある日、私がドラマを見て泣いていると、 さっきまであっちの方で紙をカジカジして遊んでいた桃が、 いつのまにかそばに来ていて膝の上でじっと私を見上げていることに気付きました。 それはまるで「どうしたの?」と言っているよう。 犬や猫が飼い主さんの気持ちを読んで慰めてくれる話は知っていましたが、 こんなに小さな脳ミソしかない鳥がまさか・・・とその時は思いました。 でもそれからも同じ様な事が何度か続き、 どうやらこれは偶然ではないと思わずにはいられなくなってきたのです。

そしてついこの間のことでした。ドラマ「ピュア」の再放送の最終回。 気持ちがこみあげてきて涙がこぼれると、いつものように桃は膝に乗ってきて 私をじーっと見上げ、そのうち膝からだんだん上に登って来たかと思うと、 私の胸のところで「ヒュン、ヒュン」と鳴き始めたのです。 私の目を見ながら「どうしたの?大丈夫?」というように。 そしてそして、こんなことってあるでしょうか。 桃は、私の頬をつたって流れた涙を、嘴でチョンチョンと舐めてくれたのです。

桃に、人の悲しみや感動がわかってそれを可哀想だとか慰めようとか、 そんな高等な感情があるとは思えません。 でも桃はきっと、人の心の中のいつもと違う何かを 感じ取ることが出来るのではないでしょうか。 動物が人の心を癒してくれるという 『アニマルセラピー』  なんだかわかるような気がします。
こんなことがあってから、今迄よりも一層桃に対しての愛おしさが強くなりました。 桃に出会えて本当に良かった。

 

《追 記》
もちろん嘘泣きも試してみました。 しゃくりあげながら両手で顔を覆って、指の隙間から桃を見てみると・・。 「何やってんの」と桃は私に一瞥をくれただけでした。  (1996年7月記)

 

桃ちゃんのホームページへ戻る