僕と桃ちゃん 1

 

私は、生まれてこのかた動物と暮らしたことが無く、 犬猫鳥も特に好きではありませんでした。
結婚し、仕事を辞めたら是非小桜インコを育てたいという彼女の熱心さに、 反対する理由はありませんでしたが、見守るだけになるだろう、 そういう予想で桃を迎え入れたのでした。


桃がまだヒナの頃、
こわごわ抱っこしてます いよいよ退職した彼女が、 勤務先近くの小鳥屋さんに頼んでおいた小桜インコの雛を迎えに行く日が来ました。 車で筑波まで連れて帰る予定でしたが、当時彼女はバレーボールをやっており、 その練習の間、私が雛を一人預かることになったのです。
二人きりになって1時間、藁でできた入れ物からは、物音も鳴き声も無く、 だんだん雛の生死が心配になってきました。
そっと藁の蓋を開けてみると、生きていることだけは確かなようです。
動物の感触が余り好きでなく、衛生的で無いと思って育った私は、 産毛だらけで頭の形もはっきりしない雛を見て、 心配はするものの正直気持ちが悪くて、触りたくないというのが本心でした。 ましてや、咬まれたり舐められたりするなんて、とんでもありません。 しかし余りにも動かないので、恐る恐る雛を手ですくい上げ  「大丈夫か?」 と声をかけてみました。


初めて経験する何とも言えぬ感触。
ハ虫類のような足は、ひんやりと冷たく、 灰色の羽毛に包まれてどこからが正味の体か分からないこの物体を、 どうやって扱ったらいいのか、怯えながらそっと両手で支えました。
これが、私と桃が初めて触れ合った瞬間でした。

ぎっくり腰で寝ているところへ桃が遊びにやって来ました。
腕の下からひょっこり顔を出した瞬間を撮影成功。
翌日から、筑波のアパートで子育てが始まりました。
毎日数回、彼女が餌を与えるのを隣りで見、 テーブルの上をよちよち歩くだけだったのが、 やがて飛べるようになっていくその成長の過程を見ているうちに、 桃に対する気持ちが徐々に変わっていきました。
僕らを見上げるつぶらな瞳、ふわふわした羽毛を一生懸命手入れをする姿、 そうした一つ一つの動作の可愛いさに、だんだん魅了されるようになったのです。


しかし一番想像してなかったのは、鳥にも感情があって、 人とコミュニケーションがとれるのだということでした。
例えば、新聞を読んでいる時、周りをうろうろしている桃に、 紙でもかじりたいのかと好きそうな広告の紙を見繕って出してやると 喜んで飛びついてきたり、自分の部屋に戻りたそうにしているので、 水でも飲みたいのかとカゴの扉を開けてやると、 思った通り美味しそうに水をゴクゴク飲んだり・・・。
中でも一番驚いたのは、彼女の話です。
彼女がテレビドラマを見て泣いていると、 今迄、紙で遊んでいた桃が彼女の膝まで来て、 彼女の顔を心配そうにじっと見上げるなんて、 全く鳥に対する見方が180度変わってしまいました。

パソ中に桃が肩の上に・・・。
色々といたずらして困らせてくれます
彼女ほどは慣れていませんが、今では私に対しても甘咬みするだけで、 特に強く咬んだりすることはありません。 最初は、おっかなびっくり触っていた私も、 この頃では桃をつかんで掌の上でひっくり返し、 お腹を上にするなんてことも出来るようになってきました。 ずいぶんと進歩したものです。

朝の出勤時には、まだ桃は起きていなかったり、 もちろん帰宅した時には寝ているので、 ゆっくり顔を合わせることが出来るのは週末だけという すれちがいの生活ですが、彼女と同じく、 桃と少しでも長く一緒に暮らしたいと思っています。
桃ちゃん、ずっと元気でね。  (1997年5月記)


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